日本絵本書誌の記述法


 書誌とは、書物の内容および形態についての要約的記述であるが、その対象や目的に よって、記述の在り方が異なったものになることは言うまでもない。ここで対象とするの は、一般に日本古典籍(こてんせき)あるいは和古書(わこしょ)、和本(わほん)などと呼ばれ る、日本の近世以前の書物の内、絵本、画譜(がふ)類を中心とする版本(はんぽん)である。 それらは、近代以降の書物とは際だった相違点を有するとともに、絵本、画譜以外の古典籍 とも若干、違った注意が必要である。したがって、その実態を知るための書誌的事項も、お おむね版本一般と変わりはないものの、またおのずから異なったものとならなければならな い。すなわち絵画を主体とする絵本、画譜の実状に即した書誌的事項を立て、適切に記述す る必要がある。

 以下、その記述方法の概要を説明することとするが、今回の書誌の記述のレベルは、いち おう解題目録(かいだいもくろく)の作成や研究の参考用にも耐えうる基礎データということ で考えたので、やや詳しい取り方となっている。もちろんより簡略な目録の作成には、これ ほどの記述の詳しさは必要ない。それぞれの目的に合わせて記述すべき項目を適宜、取捨す ればよいのであるが、ただ項目のなかに、削ることのできない基本項目といってよいもの と、削ってもあまり支障のない項目があることをわきまえておく必要があろう。


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1. 書名(しょめい)

 書名とは一般に本の題名であることは言うまでもないが、ここでいう書名 は、とくに通行書名(つうこうしょめい)あるいは統一書名(とういつしょめい)という べきものである。ふつう書名は、表紙の題簽(だいせん)[P35] や本文の冒頭に 記されるが、それが通行書名と一致する場合は問題ない。しかし実際には一 致しないこともしばしばであり、その場合には題簽や巻首題(かんしゅだい)を 手掛かりにして、書名を特定する必要がある。その時に必要になるのが『国 書総目録(こくしょそうもくろく)』であり、通行書名というのも、ふつうにはこ の『国書総目録』が採用している題名を指していると考えてよい。もちろん 『国書総目録』とて誤認や疑問がないわけではなく、明らかな誤りは正すべ きであるが、それ以外は、この目録を踏まえることが通例となっている今 日、汎用性(はんようせい)を考えれば、よほどのことがない限り、これによっ て書名を同定すべきである。

 もちろん『国書総目録』以外にも書名を同定する参考書はいろいろあり、 絵本に限っていえば、漆山天童(うるしやまてんどう)の『絵本年表 (えほんねんぴょう )』、相見香雨(あいみこうう)の『絵本画譜年表(えほんがふねんぴょう)』その他を挙 げることができる。これら年代順の書目は、書名の記載を欠く場合でも、出 版年や著者がわかっていれば、書名の見当がつけられる場合も少なくなく有 用である。また参考書に当たっても同定ができない場合で、それが新出の資 料と目される場合には、[  ] に入れて外題(げだい)等を勘案(かんあん)して適 宜、書名を記しておく方法が取られる。ただし [ ] は、新出資料であると いう確証が得られた場合はよいが、しばしば同定ミスを新出資料と誤認し て、恥をかくことが多いので、よほどの注意が必要である。いずれにして も、この同定はきわめて重要な作業で、目録を作る場合も同定が正しくでき ているか否かが、その出来不出来を左右するといっても過言ではない。

2. 著編者(ちょへんしゃ)

 画者など、著編者の確定も重要な作業であるが、書名の同定ができていれ ば、やはり『国書総目録』によって比較的容易に確定することができる。と くに同書には、別巻として著者別索引があるので、それを活用することがで きる。注意すべきは、著者もいわゆる通行人名(つうこうじんめい)を優先的に記 述すべきことであり、かつその本に記載された人名も併記して置くべきであ ろう。ただし何が通行人名であるかは簡単に判断できるものではなく、これ も便宜的に『国書総目録』『国書人名辞典(こくしょじんめいじてん)』などによっ て判断すればよい。たとえば葛飾北斎(かつしかほくさい)を例に取ると、通行人 名は葛飾北斎とし、その他の俵屋宗理(たわらやそうり)、為一(いいつ)などの別称 は、その本の記載に従って ( ) に入れて併記することになる。

 画者名について、『国書総目録』の記述が不備である場合など、記載され る名称類を手掛りに『古画備考(こがびこう)』などを検索することによって、 他の画者名が判明すれば、それも付記しておきたい。 

 また著編者が画者の場合には画、模(が・も)、それ以外の場合には著、 編、作、訳(ちょ・へん・さく・やく)などの語を付して、その本との関係を表す。

3. 巻数(かんすう)

 巻数とは、その本の巻立て(かんだて)による内容的数量のことであり、形態 的な数量である冊数とは区別する。記述の仕方は、単に「何巻」のよう記す が、現状の欠存に関わらず、本来、その本が有しているべき数を記すように する。もちろん不明の場合には無理に記さなくともよい。

以下、その本の現状に従って記述する項目である

4. 刊写(かんしゃ)

 刊写とは、その本が版本 (刊本)(はんぽん (かんぽん))であるか、写本(しゃほん)であるかの区別のことである。これは普通は一目瞭然であるが、稀に版本を その体裁(ていさい)のまま忠実に臨写 (りんしゃ)した写本があり、一見、版本と 見間違いやすいので注意を要する。また版本の中に一、二丁分だけ、写した ものを綴じ込んである場合がある。これは版本の落丁(らくちょう)を、他の版 本によって写したものを補った例で、補写(ほしゃ)という。これはややもする と見落としやすいので、面倒でも一丁ずつめくっていくことで、見落としを 防ぐ他はない。補写が判明した場合は「第何丁補写」のように注記する。

5. 冊数(さつすう)

 冊数は、本の現状によって数えた数である。冊数は巻数と本来は一致すべ きであるとの見方もありうるが、実際には一致しない場合が少なくない。ま た時に合本(がっぽん)により本来の冊数と異なる場合があるが、その場合には 「合」の一字を最初に冠して、たとえば「合三冊」のように記すようにす る。

 問題は一、二冊欠けていたりする欠本(けっぽん)や、本来、複数冊のものが 一冊しか残っていない零本(れいほん)であったりするときで、その場合には欠 存の状態をできるだけ正確に記す必要がある。もちろん各冊(巻)に「第一、 二 …」などと数字の呼称が与えられていれば、容易に欠存の状況を知るこ とができる。ただしこの場合も、ある冊(巻)だけがさらに上下に分かれてい たりすることも多く、注意が必要である。数字以外では通常、乾坤(けん・こん )、上(中)(じょう・ちゅう・げ)、天地人(てん・ち・じん)、元亨利貞(げん・こう・ り・てい)、仁義礼智信(じん・ぎ・れい・ち・しん)などといった呼称が用いられる。 この中でいちばん紛らわしいのが上中下で、中巻の欠佚(けついつ)に気が付か ない場合があるので、注意を要する。また欠佚の部分がはっきりしている場 合には、たとえば「第二冊欠」のように欠冊(巻)を記し、はっきりしない場 合には、「下帖存」のように存冊(巻)を記すようにする。

6. 装訂(そうてい)

 装訂とは、本の製本、とくに綴じ方を言ったもので、その種類によって呼 称が異なる。もっとも原初的な装訂とされるのは、巻子(かんす)あるいは巻物(まきもの) と称するもので、貼り継いだ料紙(りょうし)の最後に木などの芯 (軸)( しん (じく))を付し、それに巻き付けて表紙を付け、紐で括るようにしたもので ある。絵巻やお経などに多い装訂で、絵本関係では、特殊なものとして『寛 永行幸記(かんえいぎょうこうき)』や『乗興舟 (じょうきょうしゅう)』の例があるが、 繙読(はんどく)に不便であり、取り扱いにも注意を要する。また巻子本 (かんす ぼん)は、巻を以て数えるべきところ、巻数の表記と紛らわしいために、ふつ う軸を以て数える。


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 次に、巻子本から発達したと言われるのが折本(おりほん)また折り帖(おり じょう)と呼ばれるもので、貼り継いだ料紙を一定の幅を以て山折りと谷折り を繰り返していき、最初と最後に表紙を付けるものである。やはりお経や法 帖(ほうじょう)などに多く見られ、幅の狭い細長い仕立てが多く、巻子本のよ うな繙読の不便はないが、雑な取り扱いによって、紙継ぎが剥がれたり、破 損しやすいことが難点である。一般に色摺り絵本の折り帖の場合には、一枚 ごとに色摺りした絵を見開き面で鑑賞できるよう、寸法の定まった料紙 一枚 がそのまま一面になるように貼り継ぐ。その紙継ぎの仕方に、谷折りした紙 の左端の糊代と次の紙の右端の糊代を表裏に貼るものと、同じく裏同志を突 き合わせて貼るものとがある。前者の例に『江戸名所隅田一覧(えどめいしょす みだいちらん)[P36] があり、後者の例に北斎の『春の富士(はるのふじ)[P38] 、『北斎画譜(ほくさいがふ)[P39] などがある。


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 折本に近い装訂で、やや異なったものに、ふつう画帖仕立て(がじょうじたて)などと呼んでいるものがある。これは折本の後者の例と同様、谷折りした料 紙を一枚ずつ重ねて、各紙の端裏同志を一定の幅で糊付けして継いでいき、 背の部分を糊付けし、ふつうその上から布で覆い、表紙を付したものであ る。この装訂は、やはり見開き面で絵を鑑賞しやすいように考案されたもの で、『光琳画譜(こうりんがふ)[P37]『潮干のつと (しおひのつと)』など例は多 い。ただし、背の部分が破損しやすく、そのために一見、折本のようになっ たものも少なからず見られるので、原状がいかなる装訂であったかをよく観 察することが必要である。

 また比較的古くから見られる装訂で、とくに写本に多く用いられるものに 列帖装(れっちょうそう)がある。これは何枚かの料紙を重ねて谷折りしたもの を、いくつか重ねて糸綴じしたもので、綴葉装(てっちょうそう)とも言うが、列 帖装の方がイメージが具体的でわかりやすい。歌集や物語など日本の伝統的 な本に多い装訂であり、絵本には稀である。


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 もっとも普通に見られる装訂は、料紙を一枚ずつ山折りしたものを重ね、 平たい紙縒(こより)によって下綴じしてよく固めた上で、表紙とともに折りの 反対側を糸でかがったもので、袋綴じ(ふくろとじ)と称する [P40]。絵本にも もっとも普通に見られるものであり、祐信(すけのぶ)や春信(はるのぶ)の絵本な どのほとんどはこの装訂である。ただし、色摺り絵本の場合、一枚ごとの印 刷面と見開き(みひらき)面とが一致しないために、見開きの左右の面が微妙に 色合いを異にすることが多く、『画本虫撰(えほんむしえらみ)』など手の込んだ 絵本ほど、その難点が目立つ。またこの装訂には、『宋紫石画譜(そうしせきが ふ)』のようにいわゆる唐本仕立て(とうほんじたて)のものを見かけるが、それは この装訂が、もともと中国伝来のものであるとの意識が強いことにも起因す る [P41]

 また大和綴じ(やまととじ)と称するものとして、二つ折りもしくは一枚ずつ の料紙を重ね、右端の二箇所を組み紐でかがったものがある。配り本などに しばしば見られる装訂で、絵本にも稀に例を見かける。ただし大和綴じの名 称については強い異論が存し、根拠も希薄であり、むしろ列帖綴(れっちょうそ う)の方を大和綴じと呼ぶべきとの説も根強いので、大和綴じの呼称は用い ず、代わりに結び綴じ(むすびとじ)と称した方が無難であろう。その他、本文 料紙と同じ紙によって付された表紙を共紙表紙(ともがみびょうし)と言い、表紙 を付さずに、単に紙縒で綴じただけのものを仮綴じ(かりとじ)と言う。さらに 絵図などを折り畳んで、その上お ら表紙を付けたものは畳"(たたみもの) と称 する。

 数え方としては、巻子本は軸(じく)、折本、画帖仕立て、列帖装などは帖( じょう)、袋綴じは冊(さつ)、畳物は舗(ほ)、一枚物は枚(まい)の単位を用いる が、美術研究者などの間では、そのうち折本や画帖仕立てを単に帖装(じょう そう)、袋綴じを同じく冊子(さっし)と呼ぶこともふつうに行われている。


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7. 表紙(ひょうし)

 より詳しい書誌を取るときは、表紙の文様や色も記述することが望まし く、とくに原表紙(げんびょうし)である場合には、その必要度が高い。一方、 替え表紙(かえびょうし)の場合には、あまり必要とは言えず、単に後補表紙(こ うほびょうし)である由を断っておくだけでもよい。また表紙の文様は、多種多 様であり、その文様を的確に記述することは、相当の熟練を要する。もっと も頻繁に用いられる文様には、ある程度、定まった傾向が認められるので、 それらおも立ったものについては、覚えておくようにしたい。たとえば銀泥(ぎんでい) に雲毋摺り(きらずり) の光悦表紙 (こうえつびょうし)、祐信、春信絵本な どの行成表紙(こうぜいびょうし)[P42,P43]、その他、蜀江錦、松皮菱 [P44]、紗 綾形、麻葉、牡丹唐草、雷文、雲文、布目 (しょっこうきん・まつかわびし・さやが た・あさのは・ぼたんからくさ・らいもん・うんもん・ぬのめ)、それに艶出し(つやだし)、空 押し(からおし)の別などなど。

 表紙の色についても、原表紙の場合には是非、書き留めておきたい。表紙 によく用いられる色としては丹色、栗皮色、紺色、縹色、浅黄色、砥粉色、 香色、山吹色(たんいろ・くりかわいろ・こんしょく・はなだいろ・あさぎいろ・とのこいろ・こ ういろ・やまぶきいろ)などは一通り覚えておくと便利である。また文様と組み合 わせた、丁字引き、渋引き(ちょうじびき・しぶびき)、胡粉(ごふん)による具引き( ぐびき)などの言い方もよく用いられる。ただし、あまり色合いの微妙な差異 についてまで正確に記述しようとすると、とくに茶色系など、どうしても無 理が生じ、かえって混乱の元になりかねない。よって、たとえば薄茶色など とより簡潔に単純な記述に徹する方がよい。もちろん現状の褪色(たいしょく)した色よりも、なるべく本来の色合いを探って記述することが望ましく、そ のために見返しの剥れ(はがれ)や裏表紙にも注意を払う必要がある。

8. 寸法(すんぽう)

 寸法とは、本の縦、横の長さのことで、測り方は、縦は表紙の右端の天地 を測り、横は本の上端の左右の長さを測るようにし、ともかく測定する場所 を一定にして、測定場所による誤差が生じないようにすることが大切であ る。また単位はふつうセンチメートル(cm.)で、少数点一桁まで測るように する。

 寸法を測る目的は、それによって当時の基本的な書型である特大本、大本(美濃本)、半紙本、中本、小本、特小本、豆本(とくだいぼん・おおほん (みのぼん)・ はんしぼん・ちゅうほん・こぼん・とくしょうぼん・まめほん) などの別を知ることが一つ である。また同じ書型の内でも、寸法の差異によって、その印刷時期につい てのおよその先後関係の目安を付けることができるし、上製本(じょうせいぼん)と並製本(なみせいぼん)の別を知ることもある。

9. 外題(げだい)

 外題とは、表紙に記された題名のことで、その本の書名を知るためのもっ とも直接的な材料となるものである。また版本の修訂(しゅうてい)や改題本(か いだいぼん)を考える上でもっとも重要な手掛かりを提供するのも、外題を記し た題簽(だいせん)に他ならない。

 ふつう印刷され表紙に貼られた短冊形(たんざくがた)の題簽や、摺り表紙(す りびょうし)の一部に摺り込まれた短冊形に標記されるが、古活字本(こかつじぼん )や布表紙の場合のようにはじめからないことが多いものや、後に剥落(はくら く)したものもある。その場合、無表記のままであったり、墨の書き題簽を貼 られたり、直書き (打ち付け書き)(じかがき (うちつけがき)) されていたりするが、 いずれにしてもそのことを断る必要がある。

 記述の方法は、題簽に記された文字を、角書き(つのがき)も含めてそのまま 記述すればよく、複数巻の場合は、たとえば「倭人物画譜  上(中・下)( やまとじんぶつがふ)のように記し、書名表記に相違がある場合には「いせ物語  上」「伊勢物語 下」のように記す。もし書名の下に、「初編」「続編」な どの語があるときは、それも併記しておく。ただし、「初編」とあっても、 第二編以下が未刊の場合も多く、最終的には不要となることもある。 また 題簽の表記には、時に草仮名(そうがな)を用いて万葉仮名(まんようがな)に近い書 体で書くこともある。その程度にもよるが、なるべく「宇津保物語」(「う つほ物語」)、「安賀当居乃歌集」(「あがたいの歌集」)のように、とり あえず万葉仮名によって記しておいた方が後で困ることはない。


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 題簽の貼られている位置は、ふつう表紙の左上か、中央であるが、その区 別も記すようにしたい。また題簽は単郭(たんかく)、重郭(じゅうかく)の枠や花 枠(はなわく)を伴ったり、染め紙であったりするが、それらのこともなるべく 記すようにする。さらに短冊形の題簽のほかに、矩形 (くけい) の題簽が貼ら れ、内容を示すなどして、補助的役割を果たしていることがある。それを方 簽 (副題簽)(ほうせん (ふくだいせん))[P45] などと称するが、それも記述する必要 がある。また外題に準ずるものに、袋題(ふくろだい)があり、合巻など一部の ジャンルでは、外題よりも尊重すべきであるとの意見もある。


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10. 内題(ないだい)

 版本には、外題のほか見返し(みかえし)、扉 (とびら)[P46]、目録(もくろく)、序 跋(じょばつ)、本文の巻首(かんしゅ)や巻尾(かんび)、柱(はしら)など、本の内側の 箇所に題名が記されており、これらを内題と総称するが、とくに巻首題のみ を内題と称することもある。内題は、すべてを記述するのは煩瑣(はんさ)であ るし、見返し、柱などは別に記述することになるから、ここでは巻首題以 下、必要に応じて摘記すればよかろう。ただし絵本や草双紙(くさぞうし)な ど、内題に相当するものが柱題(はしらだい)だけであったり、それすらなかっ たりするジャンルもある。柱題は、書名の一部を略記することが多いが、題 簽が欠損しているときなど、柱題を唯一の手掛かりにして書名を特定しなけ ればならないこともある。

 そもそも和本においては、一般に巻首題がもっとも本来的な題名である場 合が多く、見返しや題簽などは後に付されたと考えるのがより自然な判断で あり、とくに写本の世界で外題より内題を重んじる内題主義が優勢であるの も首肯(しゅこう)できる 。版本の世界も基本的には写本と同様に考えてよい が、ジャンルによっては上述のような訳で、外題の題簽を重要視する傾向も みられる。


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11. 見返し(みかえし)

 見返しとは、表紙のすぐ裏側のことで、ふつう本文の共紙を半丁分貼り付 けてある。版本によっては、その見返し [P47, P48, P49, P50] に著者名、書 名、魁星印(かいせいいん)、版元の堂号(どうごう)、版元印、出版時期などが記載 されているものがある。これらはすべて当該版本の出版に関する重要な情報 であるので、逐一、記述するようにしたい。また見返しに薄墨(うすずみ)や染 め紙が用いられているときは、そのことを注記する。


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12. 柱刻(ちゅうこく)

 柱 (はしら) とは、ふつう本の小口(こぐち)の部分に刻された縦枠(たてわく)およ びその中の表記を言う。表記の内容は、題名、巻数、丁付け(ちょうづけ)[P51] などであるが、古い版本ではその上下に魚尾(ぎょび)と称する装飾が施されて いることもある。また本によっては、綴じ目、いわゆる喉(のど)[P52] の部分 に丁付けが刻されていることも少なくない。この場合の丁付けは、読書の便 宜のためではなく、本来、製本の時に正しく丁合(ちょうあい)を行うために刻 されたもので、綴じ目の隠れた部分にあったりするのはそのためである。喉 の丁付けを記すには、本を痛めることのないよう細心の注意が必要であり、 無理に記すにはおよばない。記述の方法は、「古今和歌集  序 一(〜 三)」「古今和歌集 上之巻 一(〜三十六)」「古今和歌集 下之巻 一 (〜四十)」のようにする。また又丁(またちょう)と言って「二」「又二」の ように丁数が重なったり、一丁分であっても「三之四」のように記される場 合があり、そのときは面倒でもそれらを逐一、記しておくと、落丁(らくちょう )や乱丁(らんちょう)の見落としを防ぐのに役立つ。


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13. 匡郭(きょうかく)

 匡郭 [P53] は、印刷面の枠組(わくぐみ)を言う。印刷面は本来、一紙の表裏 もしくは見開き面を一単位と考えるべきであるが、ふつうは便宜、柱に区切 られた半丁分を一面として数えるため、匡郭も同様に扱う。測定方法は、本 文第一丁の右端の縦と上端の横を測り、かつ内法(うちのり)を測ることとす る。また匡郭のない場合は、字高(じこう)と言って、本文第一行の縦の長さを 測り、匡郭の代わりとする。

 匡郭を測る目的は、覆刻(ふっこく)か否かを判定する材料とすることが一つ で、ふつう覆刻の場合には、数ミリセンチメートルほど匡郭の寸法が縮むと 言われている。その理由として、覆刻の際には、ばらした版本の各紙を濡ら し、裏返して版木に貼り、それを彫刻するのであるが、そののち版木が乾い て収縮するためと言われている。また版木は、使用され、古くなるに従って 収縮するとされており、一般に後印本(こういんぼん)ほど、匡郭の寸法が寸づ まりになる傾向がみられる。したがって匡郭の長短が、同一版木の印刷の先 後を知る材料にもなるのである。

14. 丁数(ちょうすう)

 丁数とは、本の紙の数量のことで、装訂によって数え方が異なる。まず袋 綴(ふくろとじ)や列帖装は、紙の表裏を一丁と数えるので、一丁が二頁分に相 当する。折本(おりほん)の場合には、紙の継ぎ目に関わらず、折り山の数を数 えるのが普通の方法である。ただし、画帖仕立て(がじょうじたて)は、その数 え方では絵の数と丁数とが一致せず、絵の方が一つ多くなる場合が出てく る。よって画帖仕立てなどは、見開き面で数える方が誤解が少ない。いずれ の場合も、見返しが剥がれている時など、元来の状態を想定して数えること とする。また、袋綴本で半丁だけ綴じ込まれている場合などは、〇・五丁と 数えて置くこととする。

15. 料紙(りょうし)

 料紙は、紙の材質を言い、鳥の子紙 (斐紙)(とりのこがみ (ひし))、楮紙 (ちょし)、 椏紙(あし)(みつまた)などがおもな種類であり、鳥の子紙のうち薄く漉いたも のをとくに雁皮紙(がんぴし)と言う。版本のほとんどは楮紙と考えられるの で、それ以外の場合に限って注記すればよかろう。絵本なども楮紙が大半 を占めると考えられているが、『光琳画譜(こうりんがふ)』や『写山楼画本(しゃ ざんろうがほん)』など、たまに鳥の子紙を用いたものも見られる。またやや厚 手の白っぽい料紙をよく用いるが、これは、同じ楮紙でもとくに奉書紙(ほうしょし)と呼ばれるもので、一枚物の浮世絵などにはふつうに見られる紙である。それと宣紙 (画宣紙)(せんし (がせんし))という書画用の紙も見かけるが、宣紙のほとんどは中国からの輸入品と考え られる。宣紙を含む唐紙のことは、旧来、あまり究明されていないが、実際にはかなり普及していたと思 われる。もっとも料紙はわからないことが多く、通常はあまり深く追求しな い方が得策である。また装飾として礬砂引き(どうさびき)や染め紙、下絵描(し たえがき)などの紙は適宜、注記しておく。